新型コロナウイルスの感染拡大が心配され不安な毎日をお過ごしのことと拝察いたします。
四月を迎え、桜吹雪が参道に舞い、鶯の声が境内に響きわたっています。藤や山吹の花もほころび始めました。春爛漫の季節を迎えましたが、今年は心から喜べないのが残念です。
満開の桜を見るたびに思い出すことがあります。それは私の仏教の講義を聴かれたある学生さんが、レポートの中で伝えて下さったお話です。
お祖父さんが癌を患われ、余命数ヶ月ということを知らされていた彼女がお見舞いに行かれた時のことです。余命のことは知らされていないお祖父さんに、どんな言葉をかけたらよいのか迷いながら「外は、桜がきれいだよ」と言うと、「そうか、退院する頃は葉桜だろうな。来年は桜を見ることができないだろうし」という返事。ドキッとした彼女にお祖父さんは続けて、「桜の花は毎年咲き方が違うから、どの年の桜もしっかりと見ておきなさい」と言われたそうです。その数か月後にお祖父さんは亡くなりました。
彼女は、仏教の時間に「いのち」についていろいろな話を聴いているうちに、このお祖父さんの言葉を思い出しました。「私は、お祖父ちゃんから大事な頼み事をされていたことをすっかり忘れていた。今年からお祖父ちゃんのいう、どの年の桜もしっかり見てみようと思う。仏教に出遇えてよかった」という言葉でレポートは終わっています。
今年も満開の桜を見ながら、彼女はきっとお祖父さんと再会されたことでしょう。たとえ縁ある方が亡くなったとしても、亡き方々と出会い続ける世界があることを教えていただきました。
さて、四月八日はブッダ釈尊のお誕生日です。「花祭り」あるいは「
釈尊は、約2500年前インド東北部にあった釈迦国という小さな部族国家の王子として誕生されました。母マーヤー夫人は、臨月を迎え出産のために実家に帰る途中、林の中で男児を出産されたと伝えられています。誕生の地はルンビニというところで、現在はネパールに属しています。釈尊誕生の様々なエピソードについては、またの機会にお話しいたしましょう。四月七日の夜、あるいは八日にケーキを食べてはいかがかな。