住職の留学に同行しインド・プーナ(現プネー)市に二年間滞在中、住職の恩師の勧めにより現地の言語であるマラーティー語を学ぶことになりました。インドの言葉など全く知らない私でしたが、ご紹介いただいたレッカ・ダムレ夫人は、とても分かりやすく丁寧にこの言葉を教えて下さいました。
現地の言葉を学び始めたことを知ったインド人の友人たちも、私たちの部屋に来てはマラーティー語で話をしてくれるなど、先生や現地の皆さんのお蔭で、1年後にはある程度の会話ができ、独特の文字も読めるようになりました。
すると今度は、マラーティー語を話す日本人として、現地の新聞に紹介され、果てはAIR(オール・インディア・ラジオ)の番組に出演しインタビューを受けるなど思いがけない事態になってしまいました。そんな時、ダムレ夫人をはじめ多くの方々に勧められた本が、サネ・グルジー著の『シャムチアーイー』でした。マラーティー語を英訳し、その英訳を夫人に校正していただくという翻訳作業を続けました。
また、留学生活の最初の1年間、間借りをしていた家のオーナーであるカーレ氏、彼は若き時にジャーナリストとして活躍した威厳のある、ときにユーモアにあふれたよきお爺さんでしたが、そのカーレ氏にサネ・グルジーの生涯と思想に関する文献を一緒に読んでいただいたことも翻訳を進める中で大いに役立つこととなりました。
帰国後、住職とともに発行していた「西蓮寺だより」に、同書の日本語訳を少しずつ掲載していた所、東京のすずき出版様より翻訳の出版のご提案をいただき、1987年に『シャムチ アーイー インドの母と子の物語』として出版され、単行本として4000冊を販売することができました。主要新聞各紙また日航の機内誌にも紹介され、日本テレビ「宗教の時間」でも特集を組んでくださいました。
あれから30数年の歳月が過ぎ、授かった二人の子どもも成長し、今や三人の孫に恵まれています。そのような中、改めて『シャムチ アーイー』に込められた子育ての智慧や宗教を大切にする心を、現代の日本の人々、とりわけ子育て中のご両親に読んでいただきたいという思いが強くなり、この度西蓮寺のホームページに掲載することにいたしました。
一人でも多くの方にこの本を読んでいただき、インドの人々が大事にされてきた「愛と智慧と力」の世界に触れていただければ幸いです。
2020年1月1日 西蓮寺坊守 中川將子