「夕方の4時から5時頃だった。休暇だったので、僕は家に帰っていた。母はお寺にお参りに行っていた。僕は家にいた。母がお参りから帰った時に僕は尋ねた。「お母さん!僕は外に行ってもいいかな?カマラ・デオダルか、バニャー・ワルワデカルの家へ行くよ。ゴンダレカルのバプーが来たら、多分、バニャーの所でしょうと言っておいてね。もう行ってもいい?」
母が言った。「シャム!行ってもいいけれど、ひとつ仕事を頼みたいの。それを先にしてちょうだい。バールダダさんの門の前に、ひとりのマハール(アンタッチャブル)の女の人が座っているわ。とても年を取っているのよ。彼女が頭にのせていたまきの束が落ちてしまったの。彼女の頭にそのまき束をのせてあげてほしいのよ。あのおばあさんは病気で弱っているようだわ。頭の上に、まきをのせて来てちょうだい。帰って来たら、私が沐浴させてあげるわ。さあ、行きなさい」
「お母さん!他の人が見たら、僕のことを笑うよ。僕を叩きに来るよ。怒鳴りながら、僕をいじめに来るに決まっているよ。本当に行かなきゃいけないの?」と僕は尋ねた。
「みんなに言いなさい。『僕は帰って沐浴をするよ。このおばあさんは、ここで誰かマハールが来てくれないものかと、どんなに長い間、待たなければならないだろう。まきを売って、また遠いマハールワダ(マハールの居住区)まで帰らなければならないんだよ』と言いなさい。そして帰って来なさい」と母が言った。
母の言いつけを守らなければならないことだけは僕は知っていた。僕は出かけて行って、まるで偶然通りかかったようにふるまった。僕がわざわざ彼女のために来たなんてことが、彼女にわからないよう気をつけていた。僕は彼女に尋ねた。「ねえ、頭の上にまきをのせてほしいんでしょ。僕がのせてあげるよ」こう言って、まきの片方の端を持って持ち上げ始めた。
「いいんですよ、お兄さん。あなたはブラフミンです。誰かが見たら、私を叩きに来ます。やめて下さい。お兄さん。さあ、行って下さい。誰かが荷物を背負って、マハールワダからやって来たら、その人に頭の上にのせてもらいますよ」と彼女は哀願するように言った。
「僕は家に帰ってから沐浴をするよ。さあ、のせてあげるから」と言って、僕は何とか、彼女の頭の上にまきをのせてやった。
「おや、シャム、彼女はマハールじゃないか?彼女に触ったのかい?ほんの少し英語を習っただけで、イギリスの人の旦那様になったようだね。バウラオ(シャムの父の呼び名)に言い付けなければならないな」シュリーガルバットが突然、どこからか現れて、僕を叱り始めた。その時、彼の言葉を聞きつけて、近くの家のベランダに座っていた別の男の人が外へ出て来て、「シャム!のぼせているんじゃないか?少しは分別を持ったらどうだい」と怒鳴り出した。
僕は彼らに言った。「僕は家に帰って沐浴をするよ。このまま、家に入って、家を汚したりはしないよ。このおばあさんは、どんなに長い間、待たなければならないと思うの?彼女が帰るころには暗くなってしまうよ。それに、川も渡らなければならないんだよ。僕はちゃんと沐浴するよ。スナーナート シュッディヒ(沐浴により清浄になる)この言葉は僕だって知っているよ」こう言って、僕はその場を離れた。
僕が家に帰って来ると、母が言った。「あのおばあさんをこちらへ呼んでちょうだい。まきの束をのせて、まだずい分歩かなければならないわ。いつか、また、まきを落としてしまうわ。私達の家のまきも、ちょうどなくなっていたところよ。さあ、行っておばあさんを呼んでちょうだい」
「まき売りさん!こっちへ来て下さい」と僕は彼女を呼んだ。僕達の家の門を通って、彼女は中へはいった。母はおばあさんにあげるお米の量を決めた。僕は貯蔵庫から、お米を持って来て、おばあさんのサリーのたれの中に入れてあげた。母は彼女に尋ねた。「おばあさん、病気なのですか?」
「奥さん、熱がひどいんです。でも、どうしようもないんです。食べなければ、生きていけないし」と彼女が言った。
「昼の御飯が残っていて、冷たくなっていますが、あなたにあげましょうか?」と母が尋ねた。
「下さい、奥さん。神様の祝福がありますように。奥さん、世界で貧しい者の味方になってくれる人は誰もいませんよ」と、おばあさんは、悲しそうに言った。
母は御飯を葉皿の上にのせて持って来た。僕がそれをおばあさんに手渡した。おばあさんは、庭のすみに座って、御飯を食べた。
「少し水をくれませんか、お兄さん?」と彼女は言った。
水をくんで来て、僕は彼女の手のひらのくぼみの中に、上の方から注いであげた。水を飲むと、僕達を祝福しながら、おばあさんは去って行った。
「さあ、シャム、沐浴をしなさい」と、母が言った。母はバナナの木のそばに立って、少し離れた所から、僕の体に水をかけてくれた。そして、体全体が濡れたところで、僕は別の石の上に移って座った。そして、今度は、自分の手で水を取って沐浴をした。沐浴が済むと、僕は家の中にはいって言った。「お母さん、この間、ケールさんの所で、宴会があった時、ひとりの貧しいアンタッチャブルの女の人が、天幕の入り口の所で物乞いをしていたでしょ。僕達は天幕の中でプランポリー(チャパティの中に甘く煮た豆をつぶしたものが入っているぜいたくな食べ物)を食べていた。そして、もっとたくさん食べるようすすめられていた。バースカル・バトジーさんは、あまりしつこくすすめられるものだから、腹を立てて席を立とうとしたが、アプテさんが彼を何とか座らせた。それなのに、外にいるアンタッチャブルの女の人には、誰も何もあげようとはしなかった。彼女は暑さの中で苦しそうだった。宴席では、扇に水をつけて、風を送っていた。ワラという香りのよい草を入れた水が人々に配られていた。しかし、あの貧しい物乞いの女の人は叫んでいたよ。『一口でいいから、食べ物を恵んで下さい』って。お母さん、彼女に、一口の食べ物、充分の水を誰もあげなかったんだ。それだけじゃなくて、名前は知らないけど、ボンベイに仕事をしに行っている、絹のドーティを着たひとりの男の人がいきなり天幕の外に出て、その女の人に向かって怒鳴ったんだ。『今、物乞いをするなんて、恥ずかしいことだと思わないのか。まだ宴会は終わってもいないんだぞ。宴会が終わってから残り物をもらいに来なさい。中でブラフミンの人達が食事をしているのに、ここで大声で叫び続けるなんて、もってのほかだ。この頃では、アンタッチャブルも大きな顔をするようになった。さあ、出て行け。さもないと、サンダルを投げつけるぞ』こう言って、その絹のドーティを着た男の人は本当にサンダルを拾い上げたんだよ。『いやですよ。叩いてはいやですよ。出ていきますから』こう言って、彼女は立ち去った。お母さん、あの男の人は、ボンベイではイラン人の食堂で食べているんだよ。他の人達の靴を磨いて暮らしているんだよ。それなのに、自分の村では、威張って、傲慢な態度を取るんだ。さっきのおばあさんが言ったでしょ。『貧しい者の味方になってくれる人は誰もいません』って、これは本当のことだと思うよ。お母さん!もしも、いつか、アンタッチャブルの子供が出世して役人になったら、ここの清浄を重んじる人々は自分の家で、彼に御馳走をするだろうね。彼にパーン、スパーリー、香料、ばらの花をすすめて、最高のもてなしをするだろう。そして、首に花輪もかけるだろう。お母さん!お金や権力に敬意を表するのが、あの人達の宗教なのだろうか。それがあの人達の神様なのだろうか。手にサンダルを持っても、絹のドーティが汚れることはない。足にサンダルをはいて、手にソワリー、ムクテ、カダなどの絹のドーティを持って、人々は堂々としている。それなのに、足にはくためにサンダルを作ってくれる人だけが汚れていると言うのだろうか。その人の影さえ汚ないって言うんだよ。お母さん!これはどうなっているの?これが宗教なの?神様はこんなことを好きだろうか?ただお金だけが人々の神様なんじゃないの?」
母が言った。「坊や、世の中では誰もがお金や権力を尊敬するものなのよ。あのパンダリナータの話をあなたも知っているでしょ。彼が貧乏だった頃、みんなは彼のことをパンデャー、パンデャー、と呼んでいました。でも後に、彼は田舎を出て、学問をして、弁護士になったのよ。彼はワラーダやカンデーシュで莫大なお金を稼ぎました。そして、彼は自分の村に、ある時帰って来たんです。彼はソーメーシュワル(シャンカラ神)のお祭りを盛大に祝いました。人々は彼のことをパンダリナータさんと呼ぶようになったのよ。誰かの家を訪問した時、いすに座るようにすすめられたの。彼はいすには座らずに言ったわ。『ターテャさん、このいすは私に下さったのではありませんね。私のお金に対して下さったんですね。私はこの金の腕輪をいすの上に置きますよ。そして私は地面に座りましょう。あなたはお金を尊敬しているのであって、人間を尊敬しているのではないのです。人間の心の中にある神性を尊敬しているのではないのですね。心の中の豊かさを尊敬しているのではないのですね。あなたは、この銅貨や、銀貨、そして紙幣を礼拝する人なのです』シャム、彼はこう言ったのよ。マハールやマーング(低い階級の名)はお金を持っていません。だから、私達は彼らを遠ざけるのです。彼らが、明日にも金持ちになったら、私達の方がマハールやマーングになるでしょう。シャム!マハールであれ、マーングであれ、誰でも、助けてあげなければならないのよ。家に帰って、沐浴しなさい。それはやっぱり私達は社会の中で生活しなければならないからよ。社会の人々の非難に立ち向かう勇気がないから、罪ということになるのよ。彼らに触ったからではないわ。罪深いと言えば、私達はみんな罪深いのだわ」
「本当に、罪深くない人がいるだろうか。私は潔白であると誰が胸に手をおいて言えるだろう。額に汗を流して、正直に働いて、食を得るマハールやマーングの方がずっと尊いよ。そうでしょ、お母さん?」と僕は尋ねた。
「シャム!あのウィトナークが持っている畑は、本当はあるマハールのものなのよ。私はよく知っているわ。何年か前、彼はいくらかのお金を借りたのよ。それにとても高い利子をつけて、とうとう、あの畑を取り上げてしまったの。神様のところへ行ったら、私達こそ罪深いものとなるでしょう。私達は頭をうなだれて、神様の前に立たなければならないでしょう」と、母は苦しそうに言った。
「お母さん!ウィッタル神はダーマージのためにマハールになったんじゃなかった?マハールは不浄で、罪深いと神様が思っているのなら、神様はその姿を取ったりしただろうか?」と僕は尋ねた。
母が言った。「シャム!神様は、すべての姿が神聖だと思われるわ。神様は魚や亀やライオンの姿を取られたわ。それは、神様にとっては、あらゆる姿が神聖だという意味よ。神様はブラフミンになったり、魚になったり、マハールになったりもするわ。神様はガジェンドラ(象の王様)のために走ったり、馬を洗ったり、牛に牧草を食べさせたりもするわ。神様はあまり美しくない物でも好きだし、シャバリーのようなおばあさんも愛したわ。神様はグハという
母と僕が話しているうちに、ランプをともす時刻になった。僕を誰かが、「シャム、シャム!」と外から呼んだので、僕は出て行った。
みんな!僕達は誤った差別観を葬ってしまおう。社会のために働く、すべての人は神聖なのだということを頭に入れておこう。このことが実現されない限りは、僕はこう歌い続けるだろう。
わがインドに 神はいない。
暗闇だけが、わがインドを覆う。
慈悲も友情もない所に、どうして神が存在するだろう。
兄弟愛が少しもない所に、どうして神が住むだろう。
神は寺院にもいない。
神は心の中にもいない。
神は今日、わがインドでは死んでしまった」