「戦後の食べ物がない時に、お寺にあるテンポコナシの実をみんなで食べよりました。あの甘い味が、お菓子代わりで。懐かしかですな~」「ご院家(いんげ:住職のこと)さんな、知っとんしゃーですな。」といった会話が、ご法事のお斎の席で、よく交わされていました。「知っとりますよ。私まではなんとか。食べたこともありますばってん、二本とも切ってしもうて、もう今はありまっせんたい。」とそのたびに応えていました。
今年の正月、そのテンポコナシの実を、およそ60年ぶりに味わいました。かつて筑紫野市山口の八久保(現在、天拝湖入口あたりの地域の字名)に住んでおられた西蓮寺ご門徒石内信光さんはじめ石内家の皆さんより、子どもの頃お世話になった「テンポコナシ」の苗木が手に入りましたので、懐かしさとお礼をこめて境内に植樹させてくださいとの有難い申し出をいただいたのが、平成15(2003)年4月のことでした。
その後、台風で倒れたこともありましたが、場所を移し、添え木をするなどして成長を見守っておりましたが、なかなか実はならず、別の種類の苗木だったかも、などと疑ったことも何度か。
ところが、今年の正月の穏やかな日に、散歩をしながらふと木を見上げると、枯葉がたくさん残っているのかと思いきや、なんと実ではないか!と興奮状態に。とはいえ、数メートルの高さに手は届かず、何とかならぬかとうろつくうちに、近くの樹の枝に引っかかっている実を発見。小枝の先に茶色のクニャっとまがった、記憶に違わぬその実をつかむや、おそるおそる口の中へ。甘い味と香りが、時を超えて蘇ってきました。我に返り見渡すと地面にもたくさんの実が。すぐにカメラを取りに戻り、撮影したのが掲載写真です。植樹の時にいただいた文書とともに、テンポコナシの実の写真も載せています。
ネットで調べると、テンポコナシ、ケンポナシなど地方によっていろんな呼び名があり、その数はだんだん少なくなっているとか。二日酔いなど薬用効果もあるようです。
今年の晩秋、団塊世代の皆さんに声をかけて、「テンポコナシの会」を開こうかと考えています。その時期まで、コロナ禍が終息しますように。
最後になりましたが、石内家の皆様、どうも有難うございました。本物でした!