シャムチアーイー 2021/06/05更新

【未掲載版】第十三話 兄弟愛の教え

 「5月の休暇の頃だった。僕達兄弟はその時、皆、家に集まっていた。プーナの母方のおじの所へ、勉強のために行っていた一番上の兄も家に帰って来ていた。彼はプーナではやった天然痘てんねんとうにかかったのだった。病気はとても重かった。体にすき間がないほど斑点はんてんがびっしり出ていて、彼はかろうじて助かったのだった。僕は家からそれほど遠くないダポリで勉強していたので、家に帰るのは容易だった。週末にでも帰ろうと思えば、帰ることが出来た。しかし、兄は2年に一度しか帰らなかった。この時も、兄は2年ぶりに帰ってきたのだった。病後の弱った体で家に帰って来たのだった。

 天然痘の病気の後は、体に熱が続く。天然痘のせいで、体が燃えるように熱くなるので、何か冷たい物を食べる必要がある。バラの花のジャムを与えるのが一番良い方法だ。でも、僕達の家のどこにバラのジャムなど、あっただろう。お金をどう工面したらいいのだろう。しかし、母は貧しい者の知恵で良いことを考え出した。

 玉ネギはとても冷たい食べ物だと言われている。それに、とても安い。元気の出る食べ物でもあるし、りんを含んでいると医者は言う。刑務所では玉ネギはインドの国民的食べ物だと言われている。というのは、玉ネギは四季を通じてあるし、玉ネギとバクリを食べていたマーウラーの兵士達は大勝利をおさめたからである。肉体労働をたくさんする人にとっては、玉ネギは無害だが、ただ頭脳労働だけをする人にとっては、あまり良くない。

 玉ネギの長所が何であれ、母は玉ネギを半ゆでにした。一番上の皮を取って、黒砂糖のシロップの中につける。この玉ネギのシロップ漬けは体をとても冷たくする効果があると言われている。母は兄に毎日、シロップ漬けの玉ネギをふたつかみっつ与えていた。

僕はある日、母に言った。「お母さん、僕達には一度も玉ネギのシロップ漬けをくれないんだね。僕のことを嫌いなんでしょう。お兄さんには玉ネギでも何でもあげて、お兄さんの御飯にはギー(バターで作るぜいたくな油)もたくさん、ヨーグルトもたくさん。それなのに、僕達には何にもないんだね。僕達はいつも近くにいて、いつも家に帰って来るからね。誰も僕達のことなんか気にかけてくれないんだ。近くにいる者のことはすみに押しやって、遠くにいる者のことばかり、夢見ているんだね。そうなんだね。お兄さんは運がいいんだよ。僕も天然痘にかかればよかったのに。玉ネギのシロップ漬けも、ヨーグルトやミルクやギーも、もらえたのに!」

 僕の言葉を聞いて、兄は悲しくなった。兄はとても気高い心の持ち主だった。勉強をするために、兄は大変な苦労をしなければならなかった。しかし、彼は黙ってすべてのことを耐えていた。兄は僕のようないたずら者ではなかった。もの静かで忍耐強かった。海が海底火山によって内側から燃えるように、兄も苦しみと屈辱くつじょくのために内部から焼かれていた。しかし、彼は一言も愚痴ぐちを言ったことはなかった。彼は心の苦しみを誰にも決してもらさなかった。自分の苦しみや悲しみをひとに話して、その人に余計な心配をさせることはないと、彼はいつも言っていた。兄は母に言った。「本当に、お母さん、僕はひとりだっけ、おいしい物を食べるのは恥ずかしいんだよ。明日からはもういらないよ。他のみんなにもあげるのなら、僕にも下さい。もう、天然痘はなおったんだよ。つぼに残っている分を、僕達は何日かの間、みんなで分けて食べるよ」

 母が言った。「まあ、あなた達は私の継子ままこなの?シャム!なぜ、そんないやな言い方をするの?お兄さんの足の裏や、目がいつも熱を持っていて、夜は悶々もんもんとして眠ることも出来ないことをあなたも知っているでしょ。これは、彼の体を冷やすための薬なのよ。人間は食べるためにだけ生まれて来たとでも言うの?どうして天然痘にかからなかったんだろうですって?シャム、そんな事を言っていいものかしら?神様はどう思われるでしょう。せっかく、強い体を下さったのに、あなたは悪いことばかり、考えているのね。そんなことをしては駄目よ。シャム、あなたはもう小さな子供ではないでしょ。何のためにあなたは聖典や神様の本を読んでいるの?ラクシュマンやバーラタはどんなにお兄さんのラーマを愛していたでしょう。あなたは読んでも、何の役にも立たないようね。何か良いことを学ばなければならないのよ。あなたのお兄さんでしょ、それとも関係のない人だとでも言うの?たとえ、身内でなくても、病気だったら、色々な物をあげなければならないわ。あなたが家に帰って来たら、足に油を塗ったり、お湯を沸かしたりしてあげているわ。あなたが帰って来たらいつも、何かおいしい物を作ってあげているわ。ココナッツの甘いお菓子や色々な物を作って持たせてあげているでしょ。どうして、お兄さんに嫉妬したりするの?後におとなになってから、お互いに顔もあわさないようになるのではないの?シャム、そんなになっては駄目よ」

 兄が母に言った。「お母さん!お母さんは気にしすぎるんだよ。シャムはそんなつもりじゃないんだよ。さあ、今日は僕達にパンギーを御馳走してくれるんでしょう。バナナの葉を取って来ようか?」

 母が言った。「シャム、あなたが行って来なさい。あまり若い葉を切ってはいけないわ。このナイフを持って行って、上の方の葉を切って来なさい」

 僕はバナナの木のへ行って、高い所にある葉を切り落とした。葉をきれいに切りそろえて、僕は家の中に持って行った。「お兄ちゃん!バナナの葉のを楽器にするから、ちょうだいよ。僕はパチパチって鳴らすんだ」とバーブリャーが言った。

 母はパンギーを作り始めた。熱い出来たてのパンギーを僕達は食べた。上にバターがのせてあったので、さらにおいしくなっていた。「朝早く、トゥラスの木にお供えしたバターと砂糖がもう溶けていると思うわ。あれも食べなさい」と母が言った。毎日、朝早く、バターと砂糖をトゥラスの木にお供えしていた。兄は玉ネギのシロップ漬けを持って来て、パンギーと一緒に食べるようにと言って、僕達に分けてくれた。母が言った。「シャム、明日は欲しがっては駄目よ。お兄さんを呪うようなことはしないでね。良い子になりなさい」

 僕はその日、腹を立てていた。朝から、僕は誰とも口をきいていなかった。兄はウィティダンドゥー(田舎風のクリケット遊び)をしないかと誘ったが、僕は行かなかった。それで兄はバーブリャーと弓矢遊びを始めた。傘の骨を磨いて、バーブリャーは矢を作っていた。兄は標的に向かって矢を射ていた。木に矢がささったので、木から樹液がしたたっていた。僕は腹を立てて言った。「お兄さん!どうして木をいじめるの?どうして樹液を流させるの?」

 兄が言った。「それじゃ、ウィティダンドウをするかい?」

 「僕は絶対、いやだよ。」

 ひどく怒って、僕はその場を離れた。僕は兄に対して愛情を持っていないのに、木に対する愛情を見せびらかそうとしていた。それはごまかしに過ぎなかった。兄を愛さない者が、どうして木を愛せるだろう。

 昼食が終わると、兄は横になった。兄は足の裏を自分で揉んでいた。彼の足の裏はいつも熱を持っていた。あれから何年もたった今日でさえ、彼の足の裏は火のように熱い。まして、その頃は天然痘がなおったばかりだったのだ。兄の足の裏を僕は毎日、足で踏んであげていた。そうすると兄は少し楽になるのだった。しかし、その日僕は怒っていた。兄は僕を見て、ただ黙って、僕に求めていた。でも、僕は踏んでやらないと心に決めていた。僕は意地悪な気持ちになっていた。僕の中の愛情はみな、その日は死に絶えていた。その日、僕は石になっていた。兄はとうとう僕を呼んで言った。

 「シャム!足の裏を踏んでくれないかな。いいかい、シャム、僕がプーナに帰ったら、もう誰にも頼めないんだよ。ここには君がいるから頼むんだ。ちょっと踏んでくれよ」

 兄の言葉を聞いて、僕の心は内側からとけ出した。しかし、僕の頑固な自我は、かたくななままだった。雪の山が、太陽光線で溶けるように、自我の山も愛に触れれば溶け出すものだ。しかし、その時、僕は兄の言葉に耳を貸すまいと心に決めていたので、どうしても立ち上がろうとしなかった。

 母は食事をしていたが、兄の言葉が耳にはいった。彼女は手を洗ってやって来た。僕が微動だにしないのを母は見た。母は兄の所に来て言った。「ジャグー!私が踏んであげるわ。なぜシャムに頼んだりするの?どうして、彼にめんどうをかけるの?彼はあなたにとって何だと言うの。兄弟なのに、敵同志のようだわ」こう言って、母は兄の足の裏を踏み始めた。むこうでは、食事の片付け物が手もつけずに残っていた。たくさんの食器を磨かねばならなかったのに、母は放っておいた。犬などがはいって来ないようにと、母は台所の戸を締めて、兄の世話をしに来た。愛情と献身と労働の化身のような僕の母!心の広い母!一言も母は僕を叱らなかった。僕に怒りも見せなかった。とうとう僕は恥ずかしくなった。僕の自我は完全に溶けてしまった。僕は母のところへ行って言った。「お母さん、もういいよ。僕が踏むから。お母さん、僕と交替してよ」

 母が言った。「踏んであげるんだったら、やさしく踏んであげてね。乱暴にしては駄目よ。お兄さんが眠るまで踏んであげなさい。それから、遊びに行きなさい。シャム!あなたのお兄さんでしょ」こう言って、母は立って行った。食事をした部屋の床に牛ふんを広げて整えてから、母は食器を磨くために、外へ出て行った。足の指で、兄の足の裏を揉んでいた。とうとう、僕のやさしい兄は眠ってしまった。

 僕の怒りは消えてしまった。太陽が沈むのと同じように、僕の怒りも沈んでしまった。夕食がすんで、母の後片付けも終わった。僕達は庭に座っていた。トゥラスの木の上に取り付けられていたガルティーは、まだ水を1滴ずつ落としていた。夏には、トゥラスの木の上に、小さな穴をあけたつぼに水を入れて、つり下げておく。そして時々、水をさす。これをガルティーと言う。このガルティーのおかげで、トゥラスの木は冷たく保たれて、暑さのために枯れることはない。トゥラスの木のそばには、ランプがともされていたが、庭にはあかりをともす必要はなかった。僕の兄のように清らかな月の光が射していた。兄と僕とプルショッタムとバーブリャーが庭に座っていた。近所に住んでいるジャーナキーおばさんも来ていた。水につけておいた豆の皮を取る仕事をすることになっていた。僕達は裏返しにした木の台の上で、両手で手早く豆をむいていた。僕は母に言った。「お母さん!あのアビマッニュの歌を歌ってよ。僕はとても好きなんだ。『アビマッニュは倒れた。アビマッニュは戦場の兵士。ドローナは迷路を作った。アビマッニュは倒れた』この歌を歌ってよ。クリシュナとアルジュナは夜、戦場のどこにアビマッニュが倒れているのか捜しに行った。アビマッニュは『クリシュナ、クリシュナ』と歌うように唱えていた。そのやさしい声を聞いて、アビマッニュはこのあたりにいるに違いないと、ふたりは思った。この歌は本当に素敵だ。お母さん!早く歌ってよ」

 母が言った。「今日は、おばあさんが、すばらしい歌を歌って下さるわ。それを今日は聞きなさい。あの『チンディー(ぼろ布)』の歌を歌って下さい。私も長い間、あの歌を聞いていませんよ」と母はおばあさんに言った。ドゥールワおばあさんがたくさんの歌を知っていることはもう前に話したね。僕はチンディーの歌は聞いたことがなかった。それは多分、掃除か何かの歌だろうと僕は思った。僕は待ち切れなくなって、「チンディー(ぼろ布)だなんてきたない歌はいやだよ。せめて、きれいなピタンバル(絹のドーティ)のような歌を歌ってよ。おばあさん」と言った。

 おばあさんが言った。「シャム!まあ、まず聞いてごらん。このチンディーの歌の中には、ピンタバルやパイトニー(豪華な絹のサリー)も出て来るんだよ」

 おばあさんは歌い始めた。おばあさんの声はとてもきれいだった。必要な所で声を強めて、おばあさんは手振り身振りを入れて、感情を込めて歌った。そして歌のテーマに溶け込むようにして歌うのだった。この歌の初めは次のようである。

 「ナーラーヤンはドラウパディの似合いの兄さん」このチンディーの歌を作詩した人は偉大な詩人だったに違いない。とても感動的で魅力的なテーマがこの歌にはある。クリシュナはドラウパディをとても愛していたし、ドラウパディもクリシュナをとても愛していた。アルジュナとクリシュナは一心同体のようだったので、アルジュナもクリシュナと呼ばれるようになった。それと同じようにクリシュナとドラウパディも堅く結ばれていた。その一体性を示すために、ドラウパディにもクリシュナー(クリシュナの女性形)という名がつけられている。この歌の中で、詩人は大変美しい情景を描いている。クリシュナは実の妹のスバドラーよりも、後に妹のような存在になったドラウパディの方を愛していた。どうしてこうなったのだろうと、詩人は不思議に思った。そして、この歌の中でこの謎をといている。

 情況は次のようである。ある日、3つの世界を旅するナーラダはブラフマウィナー(弦楽器)を肩にかついで、愛と信仰の歌を歌いながら、クリシュナの所にやって来た。ナーラダはこの3つの世界、すなわち、神と人間と悪魔の世界、神聖と情熱と怒りの世界、優良と中間と劣悪の世界、これら3種類の世界をまわっている。それで、彼は色々な経験をしたり、様々な光景を見たりすることが出来る。誰かの偉大さをさらに発展させたり、誰かの利己的な心を取り除いたり、どこかのすみに香りの良い花が咲いていたら、その香りを至る所に送ってやったりというような仕事をナーラダはしていた。あらゆる人の家に、彼の居場所があった。それは、彼が公平で、すべての者の幸福を望んでいたからだ。

 この時、クリシュナはパンドワ兄弟の所に客として来ていた。ナーラダを見るとすぐに、彼は立ち上がって、ナーラダと親しげに抱きあって、元気ですかと尋ねた。ナーラダが言った。「クリシュナ神よ、今日、私はあなたに文句を言いに来たんです。私はあちこちでクリシュナは公平で平等な人だと言っている。それなのに、ある所でこう言われたんですよ。『ナーラダ、クリシュナを誉めるのはもうたくさんです。実の妹よりも、後に妹のような存在になったドラウパディの方を愛しているんですよ。どこが公平なんですか?』私は何と答えればよかったのだろう。それであなたに会って、この謎を解こうと思ったのです。さあ、隠さずに言って下さい。あなたの実の妹、スバドラーをあまり愛していないのですか?さあ答えて下さい。」

 クリシュナが言った。「ナーラダ、私は何もしないよ。誰かが私を引き寄せたら、その方向に私は行くんだよ。風はどこにでも吹いているのに、家の戸も窓も閉めている人が『家を締めていない人の家には風が通るのに、どうして私の家には風がはいらないんだろう』と言うのは正しいことだろうか。戸を一杯にあけている人の家には風も光も入る。戸をあけていればいるだけ、それだけ光も空気も中へ入るだろう。私の場合もそれと同じだ。ドラウパディのロープはとても強いに違いない。私を引き寄せてしまう。スバドラーのロープは切れているか、弱っているのだろう。私にはどうしようもないよ。私は自分では何もしないのだから。『全く公平で、常に征服されることもなく、中立である』という言葉は私をよく表現している。でも、あなたは自分の目で確かめたいんだね。いいですか、私の言う通りにして下さい。スバドラーの所へ走って行って言いなさい。『クリシュナが指をけがしたので、何か包帯をする布を下さい』と。そして、彼女がくれた物を持って来なさい。もし、彼女がくれなかったら、ドラウパディの所へ行って、彼女に頼んで下さい」

 ナーラダはスバドラーの所へ来た。スバドラーが言った。「いらっしゃい、ナーラダ!何かどこかのニュースを話して下さい。カイラス山の上や、天上界や、地下世界で見たものを話して下さい。あなたは幸運だわ。あらゆる所をまわって、あなたは決して退屈しないでしょうね、ナーラダ。毎日、新しい人々と、新しい国に出会うんですもの。今日は理想郷、明日は天上界というわけね。さあ、座って下さい。まあ、あなたはどうしてそんなに急いでいるの?」

 ナーラダが言った。「スバドラーさん、座るだけの時間がないのです。クリシュナが指をけがしました。血がひどく出ているんです。指を縛るのに何かぼろ布を下さい。」

 ナーラダ、ぼろ布なんて、どこで捜したらいいのかしら。このピタンバル(絹のドーティ)は北方征服の大勝利の時に、あの人が持って来てくれたものだわ。それにこのシャールー(金刺しゅうの豪華なサリー)は、クンティボージュ王が贈り物として送ってくれたものだし。ナーラダ、家の中には1枚のぼろ布もないわ。これは高価なパイトニー(ぜいたくなサリー)だし。ナーラダ!ぼろ布なんてないわ」とスバドラーは言った。

 「わかりました。それでは、私はドロウパディの所へ行ってみましょう」こう言ってナーラダは、出て行った。

 ドラウパディはクリシュナ、クリシュナと唱えながら、花の首飾りを編んでいた。ナーラダを見るとすぐに、ドラウパディは立ち上がった。「いらっしゃい、ナーラダ!この首飾りをあなたの首にかけてあげましょう。この四角いいすに座って下さい。この頃は、クリシュナがここにいるから来たんでしょう?彼のまわりにはいつも人が集まって来るのだわ。でも、クリシュナを全部取ってしまわないでね。私にも少し残しておいて下さい」

 「ドラウパディ!冗談を言っている暇はないんですよ。話をしている暇もありません。クリシュナが指をけがしたのです。まず、ぼろ布を下さい」ナーラダは心配そうに言った。

 「本当ですか、ナーラダ?どの位切ったのですか。クリシュナが指を切るなんて、何ということでしょう」と言いながら、自分が着ていたピンタンバルを裂いて、ナーラダに手渡した。

 『金銀の美しいピンタンバルを裂いて、ドラウパディは渡した。

 ドラウパディは似合いの兄、ナーラヤンを持っている』

 おばあさんの歌はあまりにも感情がこもっていたので、僕は夢中になって聞いていた。豆の皮をむくことさえ忘れていた。

 歌が終わった時、母が僕に言った。「シャム!この歌は好きですか?ちゃんと聞きましたか?」

 母の意図を僕は理解した。僕は母に尋ねた。「お母さん!今日、お母さんがどうして、この歌をおばあさんに歌ってもらったか、そのわけをあてようか?」

 「あてて御覧なさい。あなたは読心術が出来るの?」と母が言った。

 僕は言った。「今日、僕はお兄さんの足の裏を踏んであげなかったでしょう。それに朝は、お兄さんが玉ネギのシロップ漬けを食べられないようにしたし、スバドラーはクリシュナの本当の妹なのに、布をあげなかった。同じように、僕は本当の弟なのに、愛情を示さなかった。このことをお母さんは僕に知らせたかったんでしょ?僕が恥ずかしくなるように、お母さんはおばあさんに、この歌を歌うよう頼んだんだね。そうでしょう?」

 母が言った。「そうですよ。でも、あなたを恥ずかしがらせるためではなくて、あなたに愛情を教えるためなのよ」

 僕は急に立ち上がって、兄のところへ行った。兄の手を握って、僕はふるえる声で言った。「お兄さん、今日から僕はもう、『いやだ』なんて言わないよ。僕はお兄さんを愛して、尊敬するよ。僕のお昼の行動を許して下さい」

 兄が言った。「シャム!どうしたんだい?どうして許しを求める必要があるんだい?お昼のことなんて、僕は忘れてしまったよ。君のかんしゃくは、ほんの一瞬、空に雲が広がるようなものだよ。君の気まぐれな性格は知っているからね。そして、君の心が水晶のように清らかであることも知っているよ。お母さん!僕達は決して、お互いを見捨てたりはしないよ。ほんの少しけんかをしても、すぐに仲直りするよ」

 母が言った。「あなた達はお互いに愛しあいなさい。それこそ私達の喜びであり、神様の喜びです」