シャムチアーイー 2021/07/03更新

【未掲載版 最終話】第十七話 母の最後の病気

 シャムは病気でした。体には熱もありました。目を閉じて、彼は横になっていました。

 「シャム!足を揉もうか?」とゴウィンダが尋ねました。

 「いいんだよ、僕の足を揉んで、何になるって言うんだい。僕の世話なんて、しなくていいんだよ。君達はそれぞれの仕事をしてくれよ。あのモーハン・パートラーに頼まれた布を早く織って欲しいな。僕のそばに座っていて、何になるんだい。ラーマ、ラーマと唱えながら、僕は静かに横になっているよ」とシャムは言いました。

 「シャム!誰かが病気になったら、僕達はお見舞いに行くよ。僕達のアーシュラムの誰かが、病気になっても、看病しなくてもいいって言うのかい」とラームが尋ねました。

 「僕はそんなにひどい病気かい?君達は僕を愛してくれているから、僕がどんなに食べてもお腹一杯食べたとは思わないんだね。僕が体の具合がいいと言っても、そうは思わないんだね。僕が病気でなくても、君達は病人として扱うんだね。馬鹿げているよ。痛風のような重い病気になった時に、看病してもらうよ。君達が仕事に行ってくれたら、僕は気分が良くなると思うよ。ゴウィンダ、行ってよ。ラーム、君も綿を操りに行ってくれ」シャムが強く言ったので、みんなは行ってしまいました。

 夕方、シャムは少し気分が楽になりました。ベッドに座って、彼は糸をつむいでいました。口では、次のようなやさしいシュローカを歌っていました。

 「あなた以外の何物も私が好きになりませんように。
  いつも、あなたの足元にいさせて下さい。
  私があなただけに、あこがれていられますように。
  ゴウィンダ、ハレ、モクンダと唱えさせて下さい。
  私があなただけに夢中でいられますように。
  全ての意味のない議論を終わらせて下さい。
  あなたの愛の絆がありますように。
  ゴウィンダ、ハレ、モクンダと唱えていられますように」

 「どうしたの。どうしてこんなに早く来たの?」とシャムが尋ねました。

 「あなたは今晩、お話をしますか?」と、ひとりの小さな男の子が尋ねました。

 「ええ、お話をしますよ。聞きにいらっしゃい」とシャムが言いました。

 「見て下さい。あなたのために、きれいな石を持って来ました。僕達はあの丘の上に散歩に行ったんです」と、ひとりの男の子が言って、その石をシャムに見せるために並べました。

 「本当だね、何てきれいなんだろう。おいでよ。これを使って、絵を描いてみよう。僕はオウムを作るよ」こう言って、シャムはその石でオウムを作り始めました。

 子供達はひとつずつ、石をシャムに手渡しました。

 「今度は口ばしのために赤い色の小さな石が欲しいな」とシャムが言いました。

 「これがいいよ、ご覧よ。ちょうどいいよ」とひとりの男の子が言いました。シャムがその石を置くと、美しいオウムが出来上がりました。

 「今度はクジャクを作って下さい。クジャクを」ともうひとりの男の子が言いました。

 「クジャクは君達が自分で作りなさい」とシャムが言いました。

 「僕達には、うまく出来ないよ」とその子供が言いました。

 「でも、もう君達は家に帰りなさい。早めにご飯を食べて、ここにいらっしゃい」とシャムが言いました。

 「さあ、行こう。御飯を食べて、また来ようよ」と、ひとりの年長の聞きわけのよい子供が言うと、子供達は小鳥が飛び去るように行ってしまいました。

 シャムは、その様々な色の石を見つめていました。その小さな石に、神様は何という美しさを与えたのだろうと思って、シャムはその小石を胸に抱きしめました。まるで、それらは美しさの海とも言うべき神様自身の写し絵のようでした。神様を信じる者は、どこにでも、神様の写し絵を見ます。シャムも、ささやかながら、そんな経験をしていたのです。ある種の優しい表情が、彼の顔を輝かせていました。

 ゴウィンダ、ラーム、ナームデーワが、そろって彼のところへ来ました。

 「シャム!手に何を持っているの?花なの?」とラームが尋ねました。

 「僕の汚れた罪深い手で花に触れたことが一度でもあるだろうか。僕は遠くから、礼拝するだけだよ」とシャムが言いました。

 「それじゃ、手に何を持っているの?」とナームデーワが尋ねました。

 「神様の像だよ」とシャムが言いました。

 「君のガナパティ神の像だったら、バーブーにやってしまっただろう。」とビカーが尋ねました。

 「そうだよ。でも、僕はとてもたくさんの像を持っているんだよ」とシャムが言いました。

 「見せてよ。どんな像なの?」と言って、ゴウィンダがシャムの手を取って、握りこぶしを開きました。中から、ルビーや真珠のように美しいものがこぼれ出て来ました。

 「これが僕のダイヤモンド、これが僕の神様だよ。海の底には真珠があり、地中深い所にはダイヤモンドがあると言われている。しかし、僕にはすべての川の砂の中に、また、すべての丘の上に、ダイヤモンドや真珠があるのが見える。ご覧よ、何て美しい色だろう」こう言って、シャムはみんなに見せました。

 「シャム、今日、君はお話をするだろう?」とラームが尋ねました。

 「うん、あの子供達に御飯を食べて来なさいと言ったんだよ。あの子達が、この美しい石を持って来てくれたんだ。彼らがこの喜びと元気をくれたんだ。僕はもう、2時間でも話していられそうだよ。もう、お祈りの時間だね」とシャムが尋ねました。

 お祈りの時間になっていました。シャムは体にショールをまとって座っていました。お祈りが終わると、彼は話し始めました。

「差し押さえの時、ドゥールワおばあさんは家にはいなかった。彼女は村から外に出ていた。彼女は再び帰って来た。母はあの日以来、ベッドに寝たきりになっていた。体にはいつも熱があり下がらなかった。看病もきちんと出来る人はいなかった。祖母は出来るだけのことはしていた。ラーダーさんが時々、来てフラーウラー(アウラーの実で作ったお菓子)などを持って来たり、しょうがの汁で作った胆汁を減らす薬を持って来てくれたりした。ジャーナキーおばさんや、ナムーおばさんも来てくれていた。

 しかし、今、誰が家事を出来ただろう。隣のシャラダに誰が沐浴をさせてやれるだろう。母が稼いでいた2ルピーは、もう手に入らなくなった。父が帰って来るや否や、ドゥールワおばあさんは食ってかかって、愚痴をこぼした。

 「料理だって、どうやってすればいいんだい?かまどにくべる1本のまきもないんだよ。牛ふんの燃料ひとつないんだからね。野菜を料理しようにも、油もなければ、塩もない。ゆでた野菜と、ただの御飯を出せって、言うのかね」とドゥールワおばあさんがまくしたてた。

 僕の父はおばあさんに穏やかに言った。「ただ炊いた御飯を私達に出して下さい。ドゥーワールカおばさん!私達は名誉を失ってしまったんですよ。これ以上、何もかもなくさせないで下さい」

 その日、母はプルショッタムに言った。「プルショッタム!あなたのおばさんに手紙を書きなさい。最後の時に、彼女は役に立ってくれるでしょう。手紙を書いたら、彼女はきっと来るわ。ラーダーさんに葉書を1枚くれるよう、私は頼んだ。行って、もらって来なさい。そうでなかったら、インドゥーに私が呼んでいるといいなさい。彼女がきっと上手に手紙を書いてくれるわ。さあ、坊や、行って、呼んで来てちょうだい」

 プルショッタムが、インドゥーを呼びに行った。そしてインドゥーが葉書を持ってやって来た。

 「ヤショーダさん!気分が悪くなったのですか。額を揉みましょうか」とそのやさしい娘が言った。

 「いいのよ、インドゥー、そう言ってくれただけで充分よ。額を揉むと余計痛むのよ。あなたに手紙を書いてもらおうと思って、来てもらったのよ。私の妹のサクーに手紙を書きたいの。彼女に私の状態をみんな書いて欲しいの。そして、私を呼んでいると書いてね。どう書けばいいかは、あなたが一番よく知っているわ」と母が言った。

 インドゥーは手紙を書き終わると、表に住所を書いた。プルショッタムがその手紙をポストに入れて来た。インドゥーの子供が家で目を覚ましたので、インドゥーは帰っていった。

 「坊や、お水をちょうだい」と母は僕の小さな弟に言った。彼は直接母の口に注ごうとした。「スプーンで口に入れてちょうだい。スプーンがどこにも見つからなかったら、サンデャー(夕方の礼拝)に使う小さなスプーンで入れてちょうだい」と母が言った。言われた通りに、プルショッタムは母に水を飲ませた。

 「いらっしゃい、ジャーナキーさん、入って座って下さい」ジャーナキーおばさんはお見舞いに来たのだった。「足を少し揉みましょうか」と彼女が言った。

 「揉んだりはしなくていいのよ。揉んだりするとね、ジャーナキーさん、本当に余計痛くなるのよ。近くに座ってくれているだけでいいのよ」と母が言った。

 「アーウラーのお菓子を持ってきてあげましょうか。舌に味覚がもどりますよ」とジャーナキーおばさんが尋ねた。

 「ひとつ持って来て下さい」と母が弱々しい声で言った。

 「さあ、プルショッタム、あなたにお菓子をあげるわ。お母さんに持って行ってちょうだい」と言って、ジャーナキーおばさんは帰って行った。プルショッタムも彼女について行って、彼女がくれたアーウラーのお菓子を持って来た。母は小さなかけらを口の中に入れておいた。プルショッタムは近くに座っていた。

 「さあ、行きなさい、坊や。少し外で遊びなさい。学校には行かなくていいわ。私の具合が良くなってから、学校に行きなさい。ここには他に誰もいませんからね」母は彼を抱きしめながら、このように言った。

 プルショッタムは外に遊びに行った。

 午後になってから、ナムーおばさんが母の所へやって来た。彼女は母の幼な友達だった。彼女は同じ村の人と結婚していた。ふたりは子供の頃、おもちゃやおはじきで一緒に遊んでいた。ふたりはぶらんこに乗って、オウィ(民謡)を歌った。ふたりは結婚してからも、一緒にマンガラーガウルのお祭りを祝ったものだった。お互いの家を客として訪問して祝ったものだった。ナムーおばさんは、母に会いに、そうたびたびは来なかった。彼女の家は村のはずれにあったからだ。その上、彼女もまた、病気がちだった。

 「いらっしゃい、ナムー、座ってちょうだい。元気?前には、あなたの足はむくんでいたけど、今はどうなの?」と母がナムーおばさんに尋ねた。

 「今は元気よ。ウァーファーの葉で塗布したら、むくみは消えてしまったわ。でも、あなたの具合はどうななの?本当にやせてしまったわね。体の熱が下がらないのね」ナムーおばさんは母の体に手をあてて言った。

 「ナムー、プルショッタムをあなたの所へやりますから、油を1缶持たせてちょうだい。家には1滴の油もないのよ。ドゥワールカおばさんが大声で愚痴を言うのよ。私が何も説明しなくても、あなたは何でもわかってくれるわ。あなただってお金持ちではないわ。あなたも貧しいことは知っているけれど、あなたは私にとって他人ではないから頼んでいるのよ」と母が言った。

 「いいのよ、お安い御用よ。そんなに気にしなくていいのよ。何でも気に病むのね。あなたの本当の病気はそれなのよ。子供達にはあなたが必要だわ。元気を出しなさい」とナムーおばさんが言った。

 「もう、生きていたくないわ。今まで苦しんで来ただけで、もう充分だわ」と母が言った。

 「夕方に、そんな話をしてはいけないわ。明日、おかゆをおなべに入れて、持って来てあげるわ。食べてくれるわね」とナムーおばさんが尋ねた。

 「ナムー!今、永遠に目をつぶってしまいたいわ。私の人生は何と恥ずかしく、情けないんでしょう」

 母は目に涙をためて言った。

 「何を言っているの?また元気になれるわよ。そして、幸せな時代がまた来るわ。シャムやガジャーナンが大きくなるわ。ガジャーナンは職についたんでしょう」とナムーおばさんが尋ねた。

 「1ヶ月前に就職したわ。でも、給料はたった19ルピーよ。ボンベイに住んで、何を食べているんでしょう。仕送りをすると言っても、どれだけ送れるでしょう。家庭教師などのアルバイトもしているわ。おととい、5ルピーのお金を送ってくれたわ。お腹をすかしながら、送っているんだわ、きっと」と母が話していた。

 「シャムにあなたの病気のことを知らせたの?」とナムーおばさんが尋ねた。「私は主人に知らせないで下さいと言ったの。可哀想に、あちらでシャムは勉強しているのよ。余計な心配をさせたくないの。ここに来るお金だって、あの子は持っていないのよ。ここに帰って来たら、今度は学校に帰る時にお金がいるわ。お金なしに、こんなに遠い道のりをどうして行ったり来たり出来るでしょう。ここから近いダポリにいた時は、いつでも、来たい時に帰っていたけれど、勉強のために遠くへ行ってしまったわ。神様があの子を幸せにして下されば、それでいいのよ。私のことなんて、どうでもいいのよ」と母が言った。

 ナムーおばさんは帰ろうとしていた。「クンクーをつけて下さい。その棚に箱があります」と母が言った。ナムーおばさんは、自分の額にクンクーをつけ、母の額にもつけて、帰って行った。「お母さん!これを見てよ。おばあちゃんの手紙だよ。僕は全部読めたよ。読んであげようか」と言って、プルショッタムはおばの手紙を読んで聞かせた。おばの文字ははっきりとしていて、大きかった。おばが来ると聞いて、母は喜んだ。その時、インドゥーがやって来た。

 「インドゥー!明日、サクーが来るんですよ。あなたが手紙を書いてくれたでしょ。ほら、あの手紙をインドゥーに見せてあげてちょうだい」と母はプルショッタムに言った。

 インドゥー姉さんは手紙を読んで言った。

「私はこのおばさんに会えるんですね。あなたは、このおばさんの話をいつもしていましたね。いつ、お会い出来るかと楽しみにしていたんですよ」その時、インドゥーのお母さんがインドを呼んだ。「プルショッタム!さあ、私達の家に一緒に行きましょう。お母さんがサンザー(お菓子の一種)を作ってくれたのよ」と、インドゥーが言った。

 「行きなさい、坊や、この人達は他人ではありませんからね」と母が言った。それで、彼もついて行った。  「私のせいで、君はこんなに苦労をしているね。君に充分な食べ物や、飲み物さえ、私はやることが出来ないんだ。私は不運だ。一体、どうすればいいんだろう」父は母のそばに座って話していた。

 「何をおっしゃるんですか。あなたが希望をなくして泣いていたら、幼いプルショッタムはどうしたらいいんですか。男の人は勇気をなくしてはいけないわ。何もくよくよすることはありません。あなたのおかげで、私は昔、思う存分楽しんだわ。あらゆる幸せとぜいたくを味わったわ。何不自由ない生活だったわ。今、少しつらい時代が来たけれど、それも過ぎ去って行くわ。私は見ることが出来なくても、子供達がりっぱになる様子を見守って下さい。あなたの目を通して、私は見ることにします」と母が話していた。

 「君だって、また元気になるさ。サクーが来て、君を元気にしてくれるよ」と父が言った。

 「今となっては、偽りの希望を持って、何になるでしょう。中が朽ちて、空洞になった木は倒れてしまうしかないのです。それは、私にとって、幸せなことだわ。腕輪をつけたまま、主人を持ったまま、私は死ねるわ。でも、あなたがひとりぼっちになることを思うと、それが悲しいのです。そうでなかったら、何も思い残すことはないわ。あなたのひざの上で、あなたに見守られて死ぬことより、幸せなことがあるかしら。この幸運に比べたら、他のものはすべて取るに足りないものです。この幸運の喜びのために、あらゆる悲しみも、喜ばしいことのように思えるのです」と母は話しながら、父のひざの上に自分の熱のある手をのせた。母は話したために、疲れていた。

 「お水を、お水を少し、あなたの手から飲ませて下さい」母は愛情込めて言った。父は小さなコップで母の口の中に、水を少し注いだ。

 「あなたの手から飲むお水は、清らかなガンジス川のようです。不死の甘露よりも甘く感じます。今日は私のそばに座っていて下さい。どこへも行かないで下さい。私は目を閉じて、あなたのことを考えています」と言って、母は父の手を取って、目を閉じて父のことを考えていた。とても気高く、感動的で、神聖な光景だった。

 その時、ラーダーさんがやって来た。そこに父が座っているのは見て、彼女は帰ろうとした。「いらっしゃい、インドゥーのお母さん、入って下さい」こう言って、慎しみ深い父は立ち上がって、外へ出て行った。ラーダーさんは母のそばに座った。そして、母の髪をなでつけて、髪を少し整えた。「あなたの妹さんは明日の朝早く、来るんでしょう」と彼女が尋ねた。「ええ、手紙が来たんです。インドゥーも読みました」と母が言った。

 「インドゥーが話してくれたんです。何もかも、うまく行くわ。あなたを愛している人がそばにいれば、あなたも心が安まるわ」とラーダーさんが言った。

 「みんな私を愛してくれる人達ばかりだわ。その人達がそばにいてくれて、あなたも近くにいてくれる。これ以上望むことは何もないわ」と母が言った。

 ラーダーさんはしばらく、そこに座って話をしてから、帰って行った。

 おばは、朝早く、来ることになっていた。船旅をして来た人々を乗せて来る牛車は、夜明け頃にパールガドに着く。戸口の所に、少しでも牛車が停まったような気配がすると、プルショッタムは走って見に行った。しかし、牛舎はまた先へ行ってしまった。とうとう1台の牛車が門のところに停まった。

 「うちの門の前に停まったよ」とおばあさんが言った。ドゥールワおばあさんは牛ふんで、床をきれいにしていた。プルショッタムが走って出て行った。父も出て行った。そうだ、おばが来たのだった。プルショッタムはバスケットを運んだ。父はトランクを運んだ。おばはふとんを持って来ていた。料金を受け取って、御者は去って行った。

 「お母さん!おばちゃんが来たんだよ。見てよ。本当に来たんだよ」と母を揺り起こしながら、プルショッタムが言った。まだ夜明け頃だったので、母は夢を見ていた。

 「来てくれたの?これで私は、思い残すこともなく、行ってしまえるわ」と母が言った。母の意識は半分だった。母は半分だけ目覚めていた。おばが母のそばに座った。このふたりの姉妹は、何年かぶりに会ったのだった。母の様子を見て、骨と皮だけになってしまった体を見て、おばは涙ぐんだ。

 「アッカー(お姉さん)!」と叔母は、母に呼びかけた。この呼び声の中に、その2音節の中に、おばの愛情深い、ひろい心が込められていた。

 「来てくれたのね、サクー、座ってちょうだい。私はあなたが来てくれるのを待っていたのよ。いつ来てくれるかと思っていたけれど、ずい分早く来てくれたのね。必死で、死を押しとどめていたのよ。あなたが来たら、この子供達をあなたに託して行こうと思っていたのよ。サクー!」母は泣き始めた。

 「アッカー!どうして、そんなことを言うの?私が来たのよ。もう、よくなるわ。元気を出してちょうだい。そうしたら、私はあなたとプルショッタムを連れて行くわ。今、私は仕事をしているのよ」とおばは言った。

 「もう、どこへも行きたくないわ。今はもう、神様のところへ行かせてちょうだい。この粗末な家に、私の体を横たえてちょうだい。私は主人にせがんで、この家を建ててもらったのですもの。主人のひざの上で、あなたがそばにいる時に、死なせてちょうだい。『母が死んでも、おばがいる』ということわざがあるけれど、そうなればいいと思うわ。サクー!あなたには子供がひとりもいないわ。あなたの結婚生活は、突然終わってしまったわ。まるで、私の子供達のために神様はあなたをお作りになったかのようだわ。あなたが子供達のめんどうを見てちょうだい。あなたがあの子達のお母さんになってね」母はしゃべっていた。

 「アッカー!何を言っているの?しゃべってはいけないわ。しゃべると疲れてしまうわ。ちょっと横になりなさい。私が軽く叩いて、寝かしつけてあげるわ」こう言って、おばは持って来た毛布を母の体の上にかけた。母はサリーを折って作った上掛けふとん以外は着たことがなかった。

 おばは本当に母を軽くたたいて、寝かしつけ始めた。ガンジス川とヤムナ川の清らかさが、そこにはあった。朝と夜との出会いのおごそかさがそこにはあった 。」